設計事例(住宅(新築))

イッケンハンハウス|1間半間口の住宅兼仕事場

小さな土地との出会い

誰も気に留めない土地だった。
間口4m、面積約19坪。
行政の土地区画整理事業によって生まれた*保留地 である。
周囲と比べて小さく、間口は狭く、奥行も決して十分ではない。
おそらく多くの人は、この土地を見ても通り過ぎてしまうだろう。
私自身、初めて現地に立ったとき、この場所に住宅兼仕事場をつくるのは難しいと感じた。
住宅だけでも難しい。そこへ仕事場まで入れようとしている。
無理があるように思えた。
それでも、なぜか気になった。
図面を描いてみる。
納得がいかない。
また描いてみる。
試行錯誤を繰り返すうちに、一つの確信が生まれた。
この土地だからできる建築がある。
この小さな土地だからこそ生まれる暮らしがある。
小さな土地は、制約ではなく問いだった。

*保留地:土地区画整理事業で道路や公園を整備した後、その事業費をまかなうために事業者が確保し、売却する土地

設計コンセプト

ちょうどいい寸法を探る

この建築のテーマの一つは寸法だった。
1間半の間口には余裕がない。
だからこそ、人の寸法を確かめた。
肩幅。 歩幅。 椅子を引くための距離。
冷蔵庫や洗濯機の大きさ。 食器や本の収納寸法。
一つひとつ確認しながら、どこまで削れるのかを探った。
広いことと快適なことは同じではない。
余裕があることと心地よいことも同じではない。
設計を進める中で見えてきたのは、人の身体に自然となじむ「ちょうどいい寸法」だった。
無駄なく動ける。 窮屈さは感じない。
心地よさとは、案外そんなところにあるのかもしれない。

特別なことをしない勇気

狭小地の計画では、少しでも床面積を増やすために3階建てや4階建てを選ぶことも少なくない。
しかし、この土地で本当に必要なのは面積を増やすことだろうか。
周囲には2階建ての住宅が並ぶ。
さらに建築は完成して終わりではない。
10年後、20年後、30年後…。
修繕や改修を重ねながら使われていく。
だからこの建築は、ごく一般的な工法による2階建てとした。
奇抜な解決ではなく、長く使い続けられることを優先した。
建築は目立つためにつくるのではなく、暮らしを支えるためにつくるものだと思っている。

通路をつくらず、通路で解決

この家には廊下がない。
正確には、廊下だけの場所がない。
敷地間口4m。
建築に使える有効幅は約2.8m、1間半(いっけんはん)。
その中で廊下だけに面積を使う余裕はなかった。
玄関であり、廊下。
仕事場であり、廊下。
キッチンであり、廊下。
物干場であり、廊下。
洗面所であり、廊下。
一つの場所に複数の役割を重ねている。
用途を分けるのではなく、用途を重ねる。
その結果、約20坪という小さな建築の中に、住まいと仕事場の両方を成立させることができた。
面積以上に広く感じるのは、部屋が広いからではなく、建築全体が無駄なくつながっているからだった。

暮らしと働くを重ねる

かつての町屋や商店街には、店の奥に住まいがあることが当たり前だった。
働くことと暮らすことは、もともと一つの建築の中に存在していた。
その後、住む場所と働く場所は切り離されていった。
けれど近年は、在宅ワークや小規模事業の広がりによって、再び職住一体という選択肢が見直されている。
この建築もまた、その流れの中にある。
朝起きて数歩で仕事場へ向かう。
仕事を終えて、すぐに夕食の支度を始める。
庭の植物の変化を眺めながら仕事をする。
住居でもあり、仕事場でもある。
その曖昧さを受け入れることで、新しい豊かさが生まれるのではないかと考えた。

素材にこだわる

構造材、外壁材、床材には、一部を除いて無垢の杉材を使用している。
香川のヒノキ。高知の杉。徳島の杉。できるだけ四国で育った木を使った。
木は少しずつ色が変わる。
傷も付く。
反ることもある。
けれど、それは欠点ではなく時間の痕跡だと思っている。
建築は完成した瞬間が完成ではない。
住みながら育っていく。
その変化を楽しめる素材を選んだ。
玄関の上がり框には名栗加工を施した栗材を使用している。
お客様は目が留まり、家族は毎日通る場所だからこそ、ふと手を触れたくなるような表情を持たせたかった。

目に見えない性能の価値

心地よさは、素材だけでは生まれない。
この建築では、許容応力度計算による耐震等級3を確保している。
断熱性能はUA値0.42W/㎡K(断熱等性能等級6)。
屋根には太陽光パネルを掲載し、BELS評価も取得した。
数字を追い求めたわけではない。
ただ、安心して快適に長く暮らすためには、見えない部分の性能も大切だと考えている。
居心地の良さは、目に見えるものと見えないもの、その両方によって支えられている。

小さいことは不足ではない

この住宅兼仕事場の延床面積は20.22坪。
数字だけを見ると小さい。
けれど、住み始めてから狭さを感じたことはほとんどない。
家族との距離。仕事との距離。いずれも近い。
掃除も移動も短時間で済む。
建築全体を使い切ることができる。
世の中では、大きいことに価値が置かれることが多い。
しかし、小さいことにも価値がある。
大きさは数値で測れる。
心地よさは測れない。
だから建築は面積だけでは語れないのだと思う。
イッケンハンハウスは、小さい家の可能性を探るためにつくった、暮らし方の提案である。

建築概要

施工:有限会社田中建設
所在地:香川県高松市
建物用途:戸建住宅(仕事場兼用)
構造規模:木造2階建
工事種別:新築
敷地面積:62.70㎡(18.96坪)
延床面積:66.87㎡(20.22坪)
 - 1階:26.09㎡(内自転車駐輪場3.58㎡)
 - 2階:37.20㎡
設計:山猫百貨店一級建築士事務所


イッケンハンハウス見学可能

イッケンハンハウスは、これから家づくりを考えている方や、小さな家での暮らしに関心のある方向けに公開しています。
設計者自身が実際に暮らしながら働いている住まいです。
完全予約制でご案内しておりますので、ご希望の方はお問い合わせより「見学希望」の旨を記載の上、ご連絡ください。


メディア情報
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